深夜に読み出して、数ページが過ぎた時、
「これは、まずい本を読み出してしまった・・・。」と思う。
夢中になりすぎて、閉じることが出来ない本。
ここまで思えるのは、久々の出会いでした。
「チャリング・クロス街84番地」 ヘレーン・ハンフ
これは、 1949年から20年間続いた
アメリカ在住の著者とイギリスの古書店員との書簡集。
始まりの一通は、こんなものです。
マークス社御中
貴社では絶版本を専門に扱っておいでの由、
『サタデー・レビュー』紙上の広告で拝見いたしました。
私は"古書"というとすぐ高い
ものと考えてしまうものですから、
「古書専門店」という名前に少々おじけづいております。
私は貧乏作家で、古本好きなのですが、ほしい書物を当地で求めよ
うといたしますと、
非常に高価な稀覯本か、あるいは学生さんたちの書込みのある、
バーンズ・アンド・ノーブル社版の手垢にまみれた古本しか手に入らないのです。
いますぐにもほしい書籍のリストを同封いたします。
このリストに載っておりますもののうち、どの本でも結構ですから、
汚れていない古書の在庫がござ
いましたら、お送りくださいませんでしょうか。
ただし、一冊につき5ドルを越えないものにしてください。
この手紙を持って注文書に代えさせていただきます。
かしこ
これが、どんなふうに続いていくのかは
実際に本を開いて読むべきだと思うので、記しません。
(お楽しみを取り上げるようなものですから!)
取り立てて大事件が起こるわけでも
国を超えた恋愛物語が展開するわけでもないのです。
けれど、
今のようにインターネットの無い時代の
人の心と心を繋ぐ、珠玉のストーリー。
本(特に古書)好きの人になら、気に入ってもらえると思います。
そうそう、こんなくだりもありました。
私が古本の中でも特に好きなのは
前に持っていた方がいちばん愛読なさったページのところが
自然にパラッと開くような本なのです。
ハズリットの本が着いたとき、
おのずから開いたページにはこう書いてありました。
「私は新刊書を読むのが大きらいである。」
この本が以前どなたの所有だったのかは知る由もありませんが、
その方に向かって私は「同士よ!」と叫んだものです。
登場する 当時チャリング・クロス街84番地にあった古書店マークス社。
残念ながら、今はもう無く、
「かつてマークス社のあった場所」というプレートが
この本のファンを慰めるのみです。
私は古本というものが好きで、よく利用します。
一番の理由は、値段が魅力的だからですが、
一度人の手に渡ったというだけで、
随分と安価になってしまう本をもったいないと思う気持ちもあります。
書き込みのある本も、嫌いではありません。
稀覯書を集める気は まずありませんが、
それについての本を読むのは好きです。
著者は、マークス社とのやりとりのうちに、
英国製の美しい装丁の本に目覚めていきますが
本とは、装丁を度外視しても
それ自体が美しいものだなぁ、再確認させてくれます。
この本は例の如くまた、図書館の文庫本。
返さなければいけないので、是非とも一冊欲しい!
せめてこの本くらいは、
ハードカバーで少しでも美しい表紙のものが欲しいと思うのですが、
既に絶版の中でも、あまり良いものは 出版されていませんでした。
この先、どこかの出版社が新装丁で出してくれないかなぁ・・・。