ふとつけたラジオから
思いがけず懐かしい曲が流れてきて、
何もかも忘れ
それを繰り返し聴いた時代に、タイムスリップすることがあります。
走馬灯のように浮かんでは消えていく思い出。
今この一瞬も、
いつかはそんなたまらない思い出になる。
だからこそ、美しいのでしょう。
あの頃に、好きだった「少年時代」という詩を
今日、久しぶりに読み返しました。
長靴をはいた猫と
ぼくとが
はじめて出会ったのは
書物の森のなかだった
長靴をはいた猫は
ぼくに煙草をおしえてくれた
ちょっといじわるで
いいやつだった
長靴をはいた猫と
わかれたのは
木の葉散る
秋という名のカフェ
その日
ぼくは
はじめて恋を知った
人生のはじまる前と
人生のはじまったあと
そのあいだのドアを
すばやく駆けぬけようとした
ぼくの
長靴をはいた猫は
いまどこにいるか?
寺山修司